9.11後の異文化間の交流の不可能性を描いた「バベル」

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菊地凛子のアカデミー助演女優賞ノミネートで話題になった「バベル」だが、評論家らの評価もおおむね良く、 菊地凛子の演技も気になって観に行った。
結果、監督賞は、お預けしてた分、マーティン・スコセッシでもかまわなかったが、作品賞は、「ディパーデット」ではなく、この「バベル」こそふさわしいと思えたほど、素晴らしい出来だった。


<ストーリー>
題名の「バベル」とは、人間が天まで届く“バベルの塔”を建築しようとして神の逆鱗に触れ、それまで共通の言語を話していた人類の言葉を、いくらかに分離してしまった旧約聖書の寓話から取られている。

物語は、後に明らかにされる我が子を失った事により<喪失>、夫婦間がぎこちなくなった ブラッド・ピット、 ケイト・ブランシェット夫妻のモロッコ編、彼ら夫婦の子供を預かっているベビーシッターのアドリアナ・バラーザのアメリカ・メキシコ編、母親の自殺により<母の不在>、父親・役所広司に心を閉ざす聾話者である菊地凛子の日本編の3つのパートに別れている。

これら、3つの物語が、モロッコの山羊飼いが、山羊に近づくジャッカルを追い払うため購入したライフルを息子兄弟に与え、その兄弟が遊び半分でバスを狙って発砲した事件によって結び付けられる。

監督:アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ
製作:スティーヴ・ゴリン、ジョン・キリク、アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ
脚本:ギジェルモ・アリアガ
撮影:ロドリゴ・プリエト
編集:ダグラス・クライズ、スティーヴン・ミリオン
音楽:グスターボ・サンタオラヤ

 
出演:ブラッド・ピット、ケイト・ブランシェット、ガエル・ガルシア・ベルナル、役所広司、菊地凛子、他

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オフィシャルサイト:映画『バベル』4月28日公開 公式HP

<感想>
(ネタばれあり、映画鑑賞後、読んでいただくことをお勧めします。)

■この映画は、9.11後の異文化に対する恐怖、無理解を描いた作品である
一発の銃声により、ブラット・ピット夫妻らと団地旅行を伴にしていた観光バス内のアメリカ人観光客は、パニックに陥る。
テロではないかと危惧するものも出る。
傷ついたケイト・ブランシェットを何とか助けようとブラット・ピットは、バスを降り、通りがかった車を止めようとするが、地元の運転手は、必死な形相のブラット・ピットに逆に恐怖を感じ、車を止めようとしない。

また、緊急避難的に立ち寄ったガイドの村の人々を、バス内のアメリカ人の観光客らは、恐怖の面持ちで眺める。
そして、村人らに自分達、観光客が皆殺しにされやしないかと危惧する人も出る始末だ。

ここで、描かれているのは、異文化に対する無理解、恐怖である。

一方、聾話者である菊地凛子(言語を話せないという健常者から見ると異質な存在)は、ナンパしようとする若者が、彼女らが聾話者であると分かると、まるで“化け物”のように見られてしまう。

息子の結婚式の予定があったベビーシッターのアドリアナ・バラーザは、ブラット・ピットから、明日も子供を預かってくれと言われ、困惑してしまう。
困ったアドリアナ・バラーザは、ブラット・ピットの子供らを結婚式があるメキシコに連れて行く。
対照的に、おそらくはメキシコが全く初めてであろうブラット・ピットの子供らは、鶏の首を素手で引きちぎるようなメキシコの風習に戸惑いながら、アドリアナ・バラーザの息子の結婚式を楽しむ。




やがて、異文化間の対立が同じ文化間の対立へと発展する。

村で応急手当をされたケイト・ブランシェットに対して、救急車もヘリコプターも中々、来ず、苛立った観光バス内のアメリカ人観光客は、ブラット・ピットと口論となり対立し、やがてブラット・ピット夫妻を置き去りにしてしまう。

菊地凛子とひと時を楽しんだイケ面の若い男は、暗くて、よく確かめられなかったが、もしかすると同じ聾話者の仲間とディスコで熱い抱擁とキスを交わす。

「バベル」、ブラッド・ピットと銃弾に撃たれたケイト・ブランシェット

■一発の銃声が、世界貿易センターに突っ込んだ飛行機のメタファーだとすると(この飛行機が、「バベル」における一発の銃声のように無邪気な動機よりなされていると言い張る気持ちはさらさらない)、モロッコの羊飼いと役所広司が仲良く写っている写真は、9.11以前のメタファーである。

そこでは、旅のひと時の間、互いの文化をそれぞれ固有の文化として尊重し、理解している。
だからこそ、役所広司ことヤスジローは、自分のライフルを羊飼いに与えたのだろう。

■この「バベル」が9.11後の世界を描いているとすれば、国家権力である警察は、軍隊のメタファーである。
ラスト近く、モロッコでは、羊飼い親子を追い詰め、なんら抵抗をしていない彼等に無差別に発砲し、子供の兄を傷つけてしまう。
一方、結婚式が終わり、アメリカに帰ろうとするアドリアナ・バラーザらを人種偏見のためであろうか国境に配備された警察官は、執拗に尋問する。
結果、キレたアドリアナ・バラーザの甥は、国境を強行突破する。
そして、砂漠に取り残されたアドリアナ・バラーザは、ブラット・ピットの子供らのため、パトカーに助けを求めるが、警察官は逆に彼女を逮捕してしまう。
結果、国境突破したアドリアナ・バラーザの甥を見つけ出せず、「12年、子供たちの面倒を見ていた。」と涙ながらに訴えるアドリアナ・バラーザを、違法滞住の罪で国外退去させてしまう。

■警察が軍隊のメタファーだとすれば、アメリカ大使館は国連のメタファーである。
アメリカ大使館は、政治的配慮からヘリコプターを飛ばせず、救急車も危険だと判断し、出さない。
その結果、いたずらに時間だけが過ぎていく・・・

「バベル」、電話をするブラッド・ピットの姿

■この「バベル」は、9.11後の異文化間の交流の不可能性を描いた作品である。
ラスト近く、世話になったガイドにブラット・ピットが大金を差し出すが、ガイドは、これを受け取らない。
また、12年もベビーシッターをしていたアドリアナ・バラーザを、ブラット・ピットは、子供に危険を負わした罪は問わないが、彼女が国外退去にならないように尽力する訳ではない。

ケイト・ブランシェットは、モロッコの飲食店で不潔だからという理由でコップに入っていた氷までを床に投げ捨てるのだが、無理やりながらも村の獣医の応急手当を受け、看病する村のおばあさんから薦められた痛みを紛らわすためであろうタバコを吸い、最後には洗面器に排尿するまでになるのであるが、いわば異質の文化を受け入れることによってブラット・ピットと和解する。
しかし、僕には役所広司、菊池凛子親子がなぜ和解できたのか僕には分からなかった。
日本編には、まだまだ不可解な場面がある。
何故に自殺である妻の死に、役所広司が執拗に警察に付きまとわれていたのかが、全く分からないのである。
他にもあるが、割愛させてもらう。
それとできれば役所さん当たりに、日本では専業主婦がピストル自殺するなどありえないことをアレハンドロ監督に伝えて欲しかった。

■アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ監督は、子供たちに未来を見出そうとしているのではなかろうか?
既に見てきたように、メキシコにつれられてきたブラット・ピット・ケイト・ブランシェット夫妻の子供らは、異国であるメキシコ文化になんら違和感を抱かない。
また、警察官に追い詰められ、自分の兄が撃たれて窮地にたった羊飼いの弟は、最初は抵抗するが、やがて白旗をかがげ、自分がアメリカの観光客を撃った犯人だといいながら、警察官に投降し、兄への助けを求める。
なんと堂々とした態度だろう!

■「バベル」の構成について
このようなパートに分かれた映画は、通常、1つのパートを描き、順次、次のパートを描いていき、最後にあるシーンによって、それぞれのパートを繋げるというのが、パターンであるが、この「バベル」は、3つのパートを自由に行き来する。
同じ時制なら、これでもなんら違和感を抱かないが、この「バベル」の3つのパートは、時制が異なるのだ。
時制を順序だてて並べると、モロッコ編→アメリカ・メキシコ編→日本編である。




観客は、日本編の初頭で容疑者である少年のテレビ報道、アメリカ・メキシコ編で最初に掛かるブラット・ピットの電話をモロッコ編でブラット・ピットがなかなか掛けないことによって、時制の違いを気づかされる。

それぞれのパートがお互いに影響し合うのならともかく、なんら影響を与えないのに、同時進行的に見える各パートを行き来する、今回の「バベル」の手法は、いかがなものか?
オーソドックスに、それぞれのパートを分離した方が、よりベターだったと思われるが、いかがでしょうか?

■何故にモロッコ、メキシコ、日本であらねばならないのか?
同じようなテーマで昨年、アカデミー作品賞を受賞した「クラッシュ」があるが、「クラッシュ」は、人種偏見が強いとされる、また、車社会であるロサンゼルスを舞台としなければならない必然性があったが、この「バベル」においては、何故にモロッコ、メキシコ、日本であらねばならないのか、その必然性を感じなかった。

■菊池凛子について
ケイト・ブランシェットに「彼女は、本当に耳が聞こえない役者だと思っていた。」と言わしめ、ハリウッドでも絶賛の菊池凛子だが、確かに上手いのだが、このレベルの役者さんなら日本にも他に沢山いるように思うのだが。

「バベル」の菊池凛子の姿

しかしながら、ディスコにおける菊池凛子の目の演技は、非常に上手い。
爆音が鳴るディスコでは、どうしても、それが聞こえているよな表情になってしまうか、あえて無視するような演技になりがちだが、それらが全く聞こえない演技を見せた菊池凛子は、素晴らしい。
また、自分が好意を抱いていた若い男が、他の女と熱い抱擁とキスを交わすのだが、その時の菊池凛子の感情をミラーボールによって連続写真のように見せられる刻々と変わる菊池凛子の目だけの演技とその演出法が素晴らしい。

いずれにせよ、アカデミー賞会場で西洋人に劣らず堂々とした姿の菊池凛子と「バベル」の中の菊池凛子は、とても同一人物であるとは思われない。
菊池凛子は、「硫黄島からの手紙」でやっと認知できたが、それまで映画で観てた筈だが、映画の中の役と同化して、覚えてないような加瀬亮のような俳優ではなかろうか。

いずれにせよ、「バベル」は、僕にとって今のところ、今年ナンバー1の映画である。
今後のアレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ監督の動向は、要チェックである。

↓アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ監督の過去の作品はコチラ↓

追記)「バベル」を観ている間、何故、健常者の日本人同士の会話まで字幕スーパーが出るのだろうとイライラしていたのだが、あ~、これは耳の不自由な人のためのものかと納得。
どうせなら、最初に、そう明示してくれれば別にいらない気を遣わずに済んだのにとも、思った。

トグサ的評価:★★★★星半分

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9.11後の異文化間の交流の不可能性を描いた「バベル」” への6件のフィードバック

  1. 死魔さん、こんにちわ~^^
    バベル、良かったよー^^
    S3は、分かるけど、P3って何?

  2. 今 めっちゃ忙しくて映画を見に行く暇が無い
    バベル 見たかったなー
    DVDでたら買って観るか
    このままだと S3も P3も観れそうに無いです
    悲しい

  3. バベル・・・・・評価額1600円

    人間たちが痛々しい。神が創った人間が、天に近づくほど高いバベルの塔を作ろうとしたとき、神は怒り一つだった人間たちの言葉を別々のいくつもの言語に分け、互いに話しが出来なくした。言葉を分かたれた人間たちは、散

  4. 「バベル」レビュー

    映画「バベル」についてのレビューをトラックバックで募集しています。 *出演:ブラッド・ピット、ケイト・ブランシェット、ガエル・ガルシア・ベルナル、役所広司、菊地凛子、アドリアナ・バラッザ、エル・ファニング、二階堂智、他 *監督:アレハンドロ・ゴンサレス・

  5. バベル(評価:○)

    【監督】アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ【出演】ブラッド・ピット/ケイト・ブランシェット/ガエル・ガルシア・ベルナル/アドリアナ・バラッザ/役所広司/菊地凛子/二階堂智【公開日】2007/4.28【製作

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